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マユリカとのトークライブ。好奇心が勝る人たちは強いよなって思いました。〈徳井健太の菩薩目線 第173回〉

2023.06.20 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第173回目は、習いごとについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 定期的に開催される『敗北からの芸人論 トークイベント』、その vol.5のゲストにマユリカが来てくれた。少し前、このコラムでニッポンの社長について書いたとき、大阪漫才劇場の第一線で活躍していたメンバーが、この春から東京に進出したと触れた。マユリカもその一組。だけど、俺はまったくと言っていいほどマユリカとは接点がない。「マジでわからない」コンビ、それがマユリカなのだ。

 そんなわけだから、当然、話は基本的なことに及ぶ。ツッコミの中谷、ボケの阪本はどんな人間なのか、根掘り葉掘り聞くしかない。ほぼ「はじめまして」から始まる徳井健太とマユリカの、まるでお見合いのようなトークライブ。

 二人は3歳からの幼馴染らしく、同じ町の同じエリアで青春時代を過ごしたらしい。この次点でレアなコンビだ。同級生コンビは数いれど、幼少期から一緒というのは、いそうでいない。だからなのか、掛け合いが独特というか、まるで兄弟のように波長が合う。

 通常、ツッコミとボケという関係性もあるから、片方がAと言ったら、もう片方はそれを否定したり、あるいはBを提案したりする。ところが、マユリカは二人ともAに乗っかってくる。やがてそれがAダッシュとなり、Aダッシュダッシュへと発展していく。さまぁ~ずさんやサンドウィッチマンさんの雰囲気に近いっちゃ近いけど、やっぱりそこは関西人。会話自体がボケとツッコミになるから、オーガニックな掛け合いになる。その上で、さまぁ~ずさんっぽい雰囲気で楽しそうに話すから、二人にしか出せないマユリカワールドが発生する。「マユリカのラジオは面白い」と噂には聞いていたけど、なるほど、妙に納得した。たしかにこれは、聴き心地がいい。

 コンビ揃って、アイドル(特にハロプロ系)が好きというのも珍しい。だいたい、コンビやトリオの誰か一人がアイドル好きで、他メンバーは興味がないというのが定石だ。ところが、マユリカは2人揃って、同じ方向に行く。ホントに兄弟みたいだ。

 たとえば、モーニング娘。のメンバーの名前を書いたカードを用意して、盛り上がったりするらしい。自分たちが、「お店のオーナーだと妄想し、モーニング娘。のメンバーはそのお店のバイト」という設定で、お互いにランダムでカードを引いていく。5名(枚)集まった時点で、「このメンバーで起きそうなこと」を二人で考える――というから、やっぱり珍しい。相当白熱するらしく、「今のたとえは技あり! 一本!」なんて具合に評論し合うと笑っていた。句会じゃないんだから。

 コンビでそんな楽しみ方ができるなんて、ちょっとうらやましいなと思った。大喜利的な頭の使い方をするから瞬発力だって鍛えられるだろうし、何よりお互いを評価することで結束力も強くなる。仲が良いというのは、仲が悪いよりもはるかにいい。良いこと尽くめだ。

 そんな関係性だからなのか、二人とも器用で趣味が多彩でもある。特に中谷は、漫画の腕前はプロレベルで、めちゃくちゃ絵がうまい。気分転換は、「絵を描くこと」だと話していた。芸人周りで初めて聞いたかもしれない、そんな素敵な気分転換。

 趣味というのは、やり続けた方がいいに決まっている。たとえば、俺もギターを弾くけど、「趣味です」と言い切れるほど弾いてはいないかもしれない。当然、弾いた分だけ上手くなるし、弾き続けた方が自信になる。自分を疑わないようになっていく。

 俺は、やっぱりスベるのが怖い。怯えてしまうのは、スベり続ける前に、やめてしまったから。スベり続けていれば、スベるのが怖いなんてステージは、とっくに突破している。やり続けると体になじんでくる。それを鍛錬と呼び、上手い下手の世界から飛び出すことができる方法なんじゃないのかなって思うんです。

 器用な人たちって、チャレンジ精神が旺盛なことはもちろん、自分のことをバカにされるかも……という不安以上に、好奇心が勝る人たちなんだろうな。俺は、あまりボウリングが好きではない。子どもの頃に上手ではなかったから、(まだ会話が成立していた)親父から「下手だなぁ」なんて呆れられて、やる気をなくしてしまった。今もそう言われるのがイヤだから、ボウリングから足が遠のく。好奇心より不安が勝ってしまうんです。

 のびのびとさせてくれたらいいのにね。親の愛って、そんなささいな瞬間に宿る。それが趣味になったり、手に職をつけるものになったり、才能へと変わっていくのだと思います。中谷のご両親は、とても愛情深い人なんだろうな。

 下手な絵だったとしても、けなす必要なんてないんだもの。伸ばす以上に否定しないことが、才能につながるんだなって思います。

天才・ニッポンの社長に、1ミリグラムでも責任を感じさせた自分をぶん殴りたい〈徳井健太の菩薩目線 第171回〉

2023.05.30 Vol.Web Original

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第171回目は、ニッポンの社長について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 お笑いの世界には、「天才」がいる。俺が何億光年生きたとしても、まるで思いつかないようなことを、瞬時に作り上げてしまうバケモノのような存在。

 たとえばニッポンの社長。どこからどう見ても天才のソレ。ことあるごとに俺は、「ニッポンの社長は面白い」なんて持ち上げ、彼らが作り出す世界観に感心していた。

 少し前、俺とトレンディエンジェルのたかしがMCを務めるライブに、彼らが参加したことがあった。大阪に拠点を置く彼らだったが、以前から辻とケツとは話をする機会がそこそこあり、大阪の若手とほとんど接点を持たない俺にとって、彼らは妙な親近感を抱いてしまう気になる存在でもあった。

 その日、二人とはあまり話す機会がなく、物足りなさを感じながらエンディングを迎えた。舞台から降り、帰ろうと踵を返すと、辻が俺を呼び止めた。

「すみませんでした」

 そのライブは、『キングオブコント2022』が終了して間もない頃に行われたものだった。この年、彼らは暗転を多用するコントで挑んだものの、結果は最下位に沈む。天才に似つかわしくない順位だったと思う。

「徳井さんがあんなにほめて応援してくれていたのに、ふがいない結果で申し訳ないです」

 そう辻は続けた。

 彼の言葉を聞いて、自分の浅はかさに恥ずかしくなった。ずば抜けた才能がある人間に対して、プレッシャーになるようなことを知らず知らずのうちにしていたんだと思うと、こちらが彼に謝りたい気持ちでいっぱいになった。たった1ミリグラムでも重石になってしまっていたのだとしたら、なんてことをしてしまったんだろうと、後悔の念が押し寄せてきた。

 今年4月に行われた『敗北からの芸人論 トークイベント vol.4 』、そのゲストにニッポンの社長が来てくれた。お互いに、あの日のことを覚えていた。「すみませんでした」。今度は俺が、二人に謝った。

 あらためて彼らと話をしてみると、「余計なことは言うまい」と誓ったはずなのに、やっぱり天才コンビだな――なんて思ってしまうから、人間というのは都合の良い生き物だなと思う。

 一見すると、ケツがギフテッドなキャラクターに見えてしまうけど、いやいやどうして辻の方が狂気に包まれていた。いや、ケツもおかしいんだけれども。

 ケツは20代前半まで作曲をしていたそうだ。ところが、25歳を境にピタリと曲が浮かばなくなり、「枯れた」と苦笑していた。しきりに、「サザンオールスターズはすごいんです! 桑田佳祐さんはすごいんです」と訴えていたけれど、そんなことは日本国民のほぼ全員が思っていることであって、あらためて主張することでもないだろうと、俺は思った。

 辻は辻で、ロングコートダディの堂前やマユリカの阪本らと『ジュースごくごく倶楽部』というバンドを組んでいる。ニッポンの社長は音楽的な側面も持つ……ということは、意外に知られていないかもしれない。

 辻は、突然メロディが降りてくるらしく、思いつくとそのメロディーを録音し、その音源をもとに堂前たちに伝えて作曲するそうだ。ドラムの打ち方まで鮮明に刻まれているといい、完成された曲が頭の中に浮かぶ、と説明してくれた。

 だからなのか、「ネタも台本がない」という。練習をしてしまうと飽きてしまうため、ぶっつけ本番でネタをしながら完成度を高めていくと教えてくれた。ケツは、辻が頭に描いている完成系に、本番の中で近づけ、舞台を降りると「あそこはちゃうなぁ」と辻からディレクションが入ると笑っていた。本番の最中に、調律と限界突破を同時にこなす。映画『セッション』みたいなことを、辻とケツはしているということになる。なんだ、やっぱり天才じゃないか、この二人。

 この春から、ニッポンの社長は東京に進出した。彼らに加え、ロングコートダディ、紅しょうが、マユリカ、シカゴ実業、マルセイユ……大阪漫才劇場の第一線で活躍してきた錚々たるメンバーが、大挙、進出してきた。

 辻は、トークイベント vol.4 でその理由を教えてくれた。

「僕らは漫劇の中で一番上にいますけど、下の勢いがすごすぎる。あと3~ 4年はいけると思っていたんですけど、このままだと賞味期限が1 ~2年に早まってしまう。下から突き上げられて、大阪で仕事がなくなって東京に出てきたと思われたくなかった。東京に進出するなら今年しかないと思ったんです」

 大阪には、一体どれだけ天才がひしめいているんだろう。と同時に、そういうことをさらっと隣の兄ちゃんみたいなテンションで話してくれるニッポンの社長に、やっぱり俺は夢を見てしまう。

 

※「徳井健太の菩薩目線」は毎月10・20・30日の更新です

麒麟の田村さん、若手の色彩わんだー、励まされる言葉って大切だよね〈徳井健太の菩薩目線 第140回〉

2022.07.20 Vol.web original

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第140回目は、励まされるメッセージについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

ノブコブ徳井の『敗北からの芸人論』が発売3日で重版決定「まだまだ踊り続けたい!」

2022.03.04 Vol.Web Original

 お笑いコンビ、平成ノブシコブシの徳井健太がお笑いやお笑い芸人たちへの愛をぶつけた書籍『敗北からの芸人論』(新潮社)が発売から3日で重版が決定した。徳井本人も大きな反響に驚いているという。

 徳井は「『重版』というドラマや映画でしか聞いたことのない言葉を初めて耳にした。とてもリズミカルで明るい響きだった。関係者各位、全員が踊り出す『重版』の舞、まだまだ踊り続けたいです! 迷っている方、怪しんでいる方、疑っている方、踊らにゃそんそんです、よろしくお願いします!」と喜びのコメントを寄せている。

『敗北からの芸人論』は、徳井の“お笑い考察”で話題となったネット連載を書籍化したもの。連載はお笑い芸人の東野幸治からからバトンを渡される形でスタートしており、先月28日に都内で行われた発売記念のトークショーでは、「東野さんに、“もうそろそろ徳井、売れたらどうや?”と言われている気がした」と話していた。

 書籍では、徳井が、加藤浩次、オードリー、ハライチ、かまいたち、『ゴッドタン』などを手掛ける佐久間宣行プロデューサー、さらには漫才日本一を決める『M-1』まで取り上げ、独自の視点で考察している。

ノブコブ徳井が自著『敗北からの芸人論』発売 東野幸治「いつも最後に炭酸くれる!ファンタ世代には最高」

2022.02.28 Vol.Web Original

 ノブコブこと、お笑いコンビ・平成ノブシコブシの徳井健太が自著『敗北からの芸人論』(新潮社)を28日発売、同日、都内で、発売を記念したトークイベントを行った。イベントには、徳井がヒーローと尊敬する東野幸治がゲストとして登場し、2人でトークした。

 徳井の”お笑い考察”で話題となったネット連載を書籍化。加藤浩次、オードリー、ハライチ、かまいたち、『ゴッドタン』などを手掛ける佐久間宣行プロデューサー、さらには漫才日本一を決める『M-1』まで取り上げ、独自の視点で考察している。

 なかでも、東野は注目を集めているお笑いコンビのコウテイについて書いた章が一番気になったそう。「コウテイが『ワイドナショー』に出演して激スベりしたけど、お前たちはそれでいいんだよっていうね(笑)」。

「松本(人志)さんと東野さんの前でスベるのって恥ずかしいし、もう嫌だってなっちゃうけど、本当にスベっている奴にスベってるとか、もう来るなって言わないので、コウテイよ、それを真に受けないでくれ!と書きたかったんです」と、徳井。「コウテイは、この本の中でもぶっちぎりで知らなくて、下田と一回会っただけで、九条とは会ったこともない。それのに、こんな熱烈なラブレターを急に書いて、あいつらビビったと思いますよ」と、話した。

 東野は「最後ね、“なんだかただのファンレターみたいになってしまったけれど、そのまばゆい光が果てなくなって……”」と徳井のラブレターを読み上げて「最後にいつも、すごいいい炭酸くれるんですよ! シュワっとする。全部の文章! ファンタ世代には最高です!」。徳井は照れ笑いだった。

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