昨年の暮れは、日本大学の前理事長が脱税事件で逮捕・起訴されたことが世間を騒がせました。その直前には、附属病院の医療機器導入を巡って元理事と出入りの業者の癒着に特捜部のメスが入り、大学に対して約4億円の損害を与えたとして背任罪で立件もされました。
日大の事件はこれから裁判でも詳細が解明されていくでしょうが、前理事長が「独裁的」な地位を学内で確立し、教授陣も物を言いづらい構造になっていたのは間違いありません。日大は学部だけでも16を誇り、学生数約73,000という規模は、早稲田(約50,000)や慶応(約33,000)を上回って我が国最大です。
それなのに特定の1人になぜ権限が集中してしまったのか、あるいは暴走した時になぜ監視できなかったのか。上場企業なら株主がまだ経営陣を監督できますが、大学は「非上場」なので、教育者でもある経営陣の良心に負うところが大きい。日大ほど酷くはなくても、いまの私立学校のガバナンスに欠陥があることが露呈しました。
文科省は昨年来、弁護士や公認会計士など企業統治を知り尽くす有識者による「学校法人ガバナンス改革会議」が検討を進めてきました。年末に提出された報告書では、現在の制度では、理事長の一定の重要事項を諮問する「評議員会」を最高監督・議決機関に格上げ。学内の理事が評議員と兼務することも多かったのですが、これを全て外部の人材に委ね、理事や監事らの選任・解任もできるという、いわば“株式会社化”を提案しています。
文科省としては、日大事件を世論の理解が得やすい“機会”としてこの改革策を推し進めたいところなのでしょうが、今度は各私立大学が猛反発。今月中に設置される新しい会議体で具体的な制度設計をするということで仕切り直しになりそうです。
私自身も、文科大臣補佐官だった数年前から、大学ガバナンスのあり方について申し上げてきました。制度のあり方に関しては、色々な意見もおありだと思いますが、大学の理事の皆さまに意識していただきたいと常に申し上げてきたのは、2030年代の大変革に向けて、どんな大学を作っていくかということです。
コロナ禍でさらに加速する少子高齢化の一方で、人生100年時代。高卒直後の若者受け入れに偏重していた日本の大学が、社会人向けの学び直しの機会をさらに充実させること、AIやソサエティ5.0の時代に消える職業が多い中で、どんなスキルを身につけるか–。日大の事件を逆手に、2022年は、大学関係者がこれからの学びの場づくりを真剣に考える元年になればと思います。
(東大、慶應大教授)