本を紹介する枠を受け持っていると、時折「献本」という形で本が送られてくる。そんな中で封を開けた瞬間から異様なパワーが漲っているというか、やたらとオーラのある本が出てきてびっくりすることがあるが、本書もそんな一冊である。
芥川賞受賞作『コンビニ人間』で知られる村田沙耶香自身がセレクトした12篇を収めた最新短編集。まったく予備知識を入れずに読み始めた表題作、ありふれた職場の日常の描写から1ページ目をめくって出てきた台詞「中尾さん、美味しいかなあ」に、えぇ〜。「生命式」って、表紙の燭台って、そういう意味だったのかと鮮やかに騙されてむしろ爽快といった気分になった。一般的なカニバリズムを描いた創作物にありがちな後ろめたさや背徳めいた部分が一切なく、地続きの未来にありえるのかもと思わせるところが見事だ。
人間、生きていると山本のように死んでしまう身近な人はいる。昨日までしゃべって、笑って、元気だった友人でも、ある日突然階段で落ちたり、会社にタクシーが突っ込んできたりして亡くなってしまう。ふと彼や彼女の生命式を思った。
「だって正常は発狂の一種でしょ?」
そんなふうにつぶやきながら食べるのかな、と。