少し前のことですが、今年の大学入試を振り返る報道のなかで、早稲田大学の受験者数減少が話題になっていました。早稲田は毎年10万人以上が受験してきたなかで、今年は約9万1,000人に減少しました。数学を必修化した政治経済学部の一般入試のほうは、前年比で28%減となる3,495人。報道では早稲田の入試改革に否定的な論調が目につきました。
しかし、私からすれば「新しい教育様式」に踏み出した、早稲田の大いなる一歩だと思います。7年前、メディアへの寄稿で私は、日本史や世界史でマニアックなクイズのような出題をする早稲田の「知識偏重型」入試について厳しく申し上げたこともありますが、その後、私自身が文科省で入試改革を主導していく中で、いちはやく数学の必修化というかたちで成果をみせてくれたのが早稲田の政経でした。
「ビッグデータの時代なのに、データに関する知識や数学に関する知識がないのは困る」と、時代の変化に対応して改革の決断をされた須賀晃一学部長(当時)に改めて敬意を表すとともに、数年後の就活で企業側の反応が必ず良いものになると私は確信します。
そのあたりのことは、このほど創刊したニュースサイト「SAKISIRU」ではじまった私の連載第1回でも触れたのでお読みいただきたいのですが、本欄では、東大の文系学部はなぜ2次試験でも数学を出し続けているのかを述べてみたいと思います。
法学部で学ぶ法律は一見すると、法律の知識を習得することに目が行きがちですが、現実社会で起きる出来事について法的に対応する際、法律の文言を知ってさえいれば済むわけではありません。むしろ杓子定規にいかないことのほうが圧倒的に多い。そうなると、法律の知識をどう運用するかが、実社会では問われるわけなので、論理的思考能力、論述能力があるかどうかが重要です。法律オタクと、大学教授ら専門家との違いはその有無です。
目の前のケースが複雑化するほど論理的思考能力が要求されます。その下地になるのが3つの力。すなわち難問に取り組む「姿勢(アティチュード)」、投げ出すのではなく別の方法を探してでも粘る「耐性(レジリエンス)」、そして仮説を立てて先を見通す「予測力(アンティシペイション)」です。これらはまさに数学で考える力を身につけるものです。
もし、本欄を気にして読んでいる私大の文系学部の学生がいて、数学をほとんど勉強してこなかったのであれば、まだ時間はあります。もう受験の結果を気にしてなくてよいのです。改めて勉強してみませんか。社会科学、人文科学、どの専攻でも上述した3つの力があれば分析力がぜんぜん違ってきますよ。