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カツカレー=欲望。カツカレーが人気のお店に行くと、その街のリアルがわかる。<徳井健太の菩薩目線 第123回>

2022.01.30 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第123回目は、カツカレーについて、独自の梵鐘を鳴らす――。


新宿周辺に住んでいる。

近所には普通のスーパーもあれば、老若男女が集まるような飲食店も多い。新宿と聞くと、喧騒をイメージする人は多いだろうけど、穏やかな人もいれば静かなたたずまいのお店もたくさんある。むしろ、俺自身は荒くれた人や店を目にする機会の方が圧倒的に少ない。

俺が住むエリアの近くにタワーマンションがある。その近くに、チェーン展開をしている有名なカツカレー店がオープンした。食べログ信者である俺は、そのカツカレーが美味しいということを知っていたから、早速開店2日目に行ってみることにした。

大きくはない店内。カウンターがあって、少しのボックス席。見渡すと、驚くほどに客の全員が、オールバック横刈り上げのハイアンドローな人たちばかりだった。いかつい。新宿で、こういった系統の方々ばかりに遭遇するお店は初めて。近くのタワーマンションの住人なのかもしれない。同じ属性だろう別カップルの女性の話し声が異様にデカく、ずっとブルガリの話ばかりしている。

気持ちがいいくらいオールバック横刈り上げの占有率が高い店内。全員が知人というわけではなさそうだけど、シルエットはほとんど同じ。そのうちの1人が、大声で電話をし始める。「今から来る?オッケー」。店内はすでに満席だ。

「かつ? ロース? ヒレ? わかった。席、取っておくわ」

理解できなかった。

数分後――。到着すると、オールバック横刈り上げは無理やりカウンターに席を作り、やってきた彼をわがままにエスコートした。ぎゅうぎゅうの空間に腰を下ろした彼もまた、オールバック横刈り上げだった。

ドラクエのマドハンドだらけの店内。マドハンドDがマドハンドEを呼ぶ。逆方向にいるブルガリ彼女とは別のカップルは、カツカレーを食べながら2人とも無言でボートレースの中継を見ていた。オールバック横刈り上げではない俺が、なぜここにいるのか腑に落ちた。

カツカレーは、欲望に忠実な人間が好む食べ物なんだ。そう思った。

よくよく考えれば、カレーにかつが乗っかっているわけで、欲望のかたまりのような食べ物だ。カレーにかつが乗っちゃっていたら、もうゴリゴリ。ゴリゴリのゴリ。カツカレーは、「欲」を食べているようなものだ。

丸出しの欲を提供する店内。スタッフも、己の本能に実直だ。オールバック横刈り上げBの注文を、明らかに間違えたにもかかわらず、一向に非を認めない。Bが怒りをあらわにしても、「違うと思うんですけどねー」と意に介さない。一色触発のムード。シーンとして、場がさめていく。揚げたてなのに、かつが固く感じるのは気のせいでしょうか。

徳井健太と謝らない店員がいる店内。カツカレーを求めて、自分の主義主張に一直線の人間がやってくる。

ふと考える。美味しいとんかつのお膳を頼もうものなら2000円はくだらない。なのに、このカツカレー専門店は、とんかつ店に勝るとも劣らない美味しいかつを提供し、さらにはカレーがかかっているのに、1000円そこそこで食べることができる。なんで美味いカレーがかかって、安くなるんだ。

カツカレーは、上品さとは対極にあるだろう欲望の一品。欲望定食。当然、欲のかたまりみたいな人間が集まってくる。そう言えば、このエリアには美味しいと評判のインドカレー店もあるけど、オールバック横刈り上げの生息を確認したことはない。ああ、言われてみれば、オールバック横刈り上げがナンをカレーにディップして食べる姿なんて想像できない。肘をついて、カツとカレーを流し込む。それが欲望というやつだ。

欲望という名の店内。カツカレー専門店には、やんちゃな人しかやってこない。国民食と呼んでも差し支えないだろうカレーライス。老若男女から好まれるカレーライスに、かつが乗っかるだけで、世界が変わる。かつが上陸するだけで、本来であれば生息地域が違う欲望集団が進軍してくる。

カツカレーは、淡水と海水が交わる汽水域。生命のせめぎ合いが行われているから、欲に忠実な、丸出しの人間が集まるのかもしれない。俺が暮らすエリアに、こんなにたくさんのシーラカンスがいるとは思わなかった。

自分が住んでいる街には、思いもよらない人がいる。人はみな、自分の肌に合う場所に通い、好きな人とだけ顔を合わせる。でも、カツカレーはあるべき木戸をぶっ壊す。

カツカレー店の店内。美味いお店に行くと、その街のリアルがわかるのは気のせいでしょうか。

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