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佐久間麻由 江本純子の短編2作を上演「二月のできごと」

2016.02.08 Vol.660

「二月のできごと」という一風変わったプロデュース公演が2月に上演されることになった。発案者で企画と制作を担当するのが佐久間麻由。彼女は女優として福原充則、岩井秀人、江本純子らの舞台でおなじみの存在だ。

 まずこの「二月のできごと」って?
「ここ数年、江本さんとご一緒させていただくことが多かったのですが、昨年末に江本さんとお話したときに、最近の江本さんの新作は実験的だったり思想性が強かったりすることもあってか“演劇をすることに対して腰が重くなっている”といった話をされていたんです。私は、江本さんの『常に最高の状態』のような、単純に笑える会話劇も好きだったので、“そういう江本さんの作品を見たいです。私ができることであればやります!”と言ったのが始まり。私が企画と制作をすることになりました。当初は江本さんの過去作品を2本やる予定だったのですが、江本さんが“もうひとつモチベーションをあげたい”ということで新作と旧作の2本立てになりました。」

 江本をはじめ小劇場で人気の高い俳優たちが6人も集まった。もちろん彼女自身も俳優として出演する。
「島田桃依さん以外の5人は昨年の舞台『幕末太陽傳』でご一緒した人たちです。私は島田さんとは劇団宝船の『撫で撫で』という作品でご一緒させていただいていて、それ以来のファン。江本さんは以前、島田さんをイメージした役を書いて自分で演じたことがあると聞きました。江本さんとの打ち合わせ中に、その場で皆さんに連絡したんですけど、丁度皆さんこの期間だけ空いていたのです。これはもう今やるしかない!とすぐに動き始めました」

 佐久間は昨今話題作に多く出演しているのだが…。
「ここ3年くらいかな…、俳優だけをやっていることに疑問を持ちはじめていたんです。優れた俳優さんがたくさんいるなかで、自分には何もないなと思ってしまった。“この演技が良かったよ”とか“あの作品が面白かったよ”と言われたところで、自分にあまり何も残らなかった。それは作品が良かっただけ。出会えた運もそうだけど、演出や脚本の力で、私がよく見えていただけで、私には何もないなと、ずっと悩んでいたんです。そういうこともあって次第に演出家や脚本家、制作者といった作り手側の方たちに興味を持つようになりました。ここ1年くらい、0からのもの創りをしたいという強い思いが私の中にあったので、今回こういう機会をつくれたことはとてもうれしいです」

 佐久間はもともとタレント活動をしていたが、あるとき演劇のワークショップに参加して、それから演劇の世界に。
「高校演劇や大学で演劇サークルに入ったりということがないので、そこに対する劣等感はあります。演劇が好きで好きで始めたというわけではなかったので、今でも時々 “私やっぱり演劇が嫌いなんじゃないか”と思う時があるんですよね(笑)」

見ている側はよもや佐久間がそんな悩みを抱えているとは知る由もなく…。
「自分が何者か…よく分からないです。映像の現場にいくと演劇の人と言われるし、演劇の現場にいくと映像の人と言われる。まあそれはしようがないんですけど。演劇学校を卒業するというのは、社会で言う名刺がわりになるんじゃないかなと。劇団なんかもそうだと思うんです。私にはそれがない。いまは“流れてここに来た”という感じがしています。自分の中に“これはやりたくない”とか“これは嫌だ”というものはあるから、その感覚を大切にし続けて、いまここにいるという感じなのかな。だからこの先何をするかは分からない。この『二月のできごと』もこれっきりとは言っているのですが、またやるかもしれないし、それは分からない」

 この「二月のできごと」という名前は?
「名前を付けるとユニットっぽくなってしまうからやめていたんです。だけどホームページを作る時にアカウントを作ったり、Gメールを作るときに名前が必要になった。今回はたまたま2作品だから、どちらかの名前にするわけにもいかなくて、私が2月生まれだし2月にやるし、ということでこの名前にしました。今まで自分の誕生日を特別視したことはなかったんですが、せっかく2月にやるんだったら、と思って」

 今年、自身の活動は?
「声をかけていただいているものはあるのですが、今までみたいに通常の劇場で演劇をして、という活動にならない可能性が高いな、とは思っています。自分でも、演劇ではないかもしれないけどやりたいな、と思っていることもあります。もしかしたら演劇はこの作品だけになるかもしれないのですが、まだちょっと分からないですね」

 演劇とか俳優という枠にとらわれず、クリエイティブな活動をしていくという感じ?
「そうですね。今まではこういうことも恥ずかしくて言えなかった。今回のような機会がなかったら、自分で“俳優です”と名乗ることもできなかった。自分で言う意味を見いだせなかったというか。ただ、でも、こうやって誰かと何かを一緒にやる、説得するとか、自分に興味を持ってもらう手段のひとつとして、 “俳優をしています”と言うことはすごく重要なんだなと、勉強になりました」

 実は今回会場となる「104Rmond」はちょっと特殊。
「普段はアトリエとして使われている所で、昨年秋にたまたま見つけてとても気に入ってしまったんです。こんなにすぐにではなく、後々なにかできたらいいなと思って調べてみると、ここでは演劇が行われたことがなかったのです。それだったら私がやりたい!と思って温めていた場所」

 お客さんは何人入れる予定?
「余裕を見てですが30席で考えています。本稽古を見て、客席を増やす可能性もありますが、あまりぎゅうぎゅうにしたくないという気持ちもある。ひな壇なんかを組んだりすると一気に劇場感が出てしまうから、それもあまりやりたくないです」

 でもたった30席だったらお客さんがあふれちゃう。
「ホントですか? お客さんが来てくれるかどうか考えると怖くて私眠れないんです(笑)」

 ホームページも自分で立ち上げ、企画書も自分で書いた。
「江本さんに助けてもらってます。私、小学校から高校まで一輪車しかやってこなくて、全然勉強をしていないんです(笑)。一輪車が好きで大会にずっと出ていたので、練習に明け暮れていて、学校は睡眠しに行く場所だった。だから文章の書き方も分からない。今回制作をやる上で役立っているのは、今まで何人もの制作さんと関わってこれたこと」

 普通の制作だったら、この場所でやろうという発想にはなかなかならない。やはり佐久間ならではの演じ手側からの視点だ。
「この企画の話をすると、“劇場ではない、不便といえば不便な場所で江本さんの作品を上演するのはどうなの?”と言う人もちらほらいました。でも江本さんが野外での劇やいろいろなところでやりたいという考えを持っていて、必ずしも劇場にこだわってはいないということを知っていたので、そんなに的外れなことではないなと思います。むしろ課題は、江本さんについてそういう考えを持っているお客さんにどうやってここに足を運んでもらうかということなんじゃないかと思っています」

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