「僕が本作の企画を頂いたときには、すでに能年玲奈さんと登坂広臣くんの名前が挙がっていたんです。当時は『あまちゃん』も放送前で、2人とも俳優としてはほぼ新人だったから驚いたんですけど、紡木先生が“この2人なら”とおっしゃったと聞いて興味が出たんですよね。実際にリハーサルして納得しました。この2人のまなざしが和希と春山に重なるんです。この2人を演じるには、見た目だけではダメ。出会いの場面のように、心を閉ざしながらも魂をぶつけるような目が必要だったんです。能年さんの目は、逆に見ているほうが心を見透かされているような感覚に陥るんですよね。登坂くんにしても、役者としてまっさらだったからこそ、全身で春山になりきってくれたと思います。フレッシュな2人だったから、気持ちをぶつけ合う和希と春山の一途さ、もどかしさが、よりリアルに伝わった気がします。思いを伝えあう難しさは恋愛でも友情でも家族でも同じ。みんな、コミュニケーションで悩むんです。だからこそ、本気で思いをぶつけ合おうとする和希たちの姿に、引かれるんだと思います」
監督が青春恋愛映画の名手と呼ばれる理由もここにある。
「気持ちを伝えたいけど伝わらないというもどかしさは、恋愛で見せるのが一番分かりやすいと思うんです。恋愛映画ってけっこうコミュニケーションの勉強になるんです。あと僕は、未完成な人が好きなんですよね。自分の魅力にまだ無自覚な人、自分をとらえきれずもがいている人の姿に、人間らしい魅力を感じる。だから映画の中でもそういうキャラクターを描くのが好きですし、役者さんにしても、みんなや本人が気づいていない魅力を自分が引き出したいという気持ちはあります。本作でも、これまで見たことがない能年さんと登坂くんを見せることができたのでは、と思っているので、そんなところも見てもらえたらうれしいです」