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怖すぎる、でも面白すぎて止められない—『火のないところに煙は』【著者】芦沢央

2018.08.28 Vol.709

 夏といえば怪談。表紙をめくり目次を見ると、そんなよくある怪談話かと思いきや…。

 作家の“私”はある日、『小説新潮』の編集者から「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」という短編小説の依頼を受ける。怪談を書いた経験がない“私”は断ろうと思ったが、ひとつ気になる事が。その依頼の舞台が“神楽坂”だという事。心のどこかでずっと引きずっていながらも、向き合わず、忘れたと思っていた出来事。まるで何者かに“忘れようだなんて許さない”と言われているような気がする。そんな気持ちと納得のいく説明が欲しくて、情報提供も兼ね“あの事”を小説として発表する事にしたのだが…。

 作品はそれぞれ、怪談というより怪異な現象について書かれている。幽霊やお化けといった類の話でもなく、日常の些細な違和感とでもいうべきか。それが増大し、出口のない迷路に迷い込んだような感覚に襲われる。“私”は誰に導かれ、それらの話に出会い、書き綴っているのか。それぞれの出来事の検証やお祓いに立ち会ってはいるが、論理的に説明できるわけもなく、むしろ論理的に説明づけることが正しいのか分からない。

 知らず知らずのうちに怪異に取り込まれた時、人はその運命から逃れられないのかも知れない。現実と虚構の境目があやふやで、常に不安な気持ちにさせられる、怪談より怖い一冊。

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