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普通の感覚でいることは大事だけど、それ以上に芸人は浮世離れてなんぼってところもある<徳井健太の菩薩目線第119回>

2021.12.23 Vol.Web Original

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第119回目は、喫煙所でのある出来事について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

『菩薩目線』でもたびたび触れているお金のこと。やっぱり思うところが多分にある。

 その日は、ABEMAの競輪番組の収録日だった。ゲストとして参加するグラビアアイドルの女の子が退屈にならないように、それでいて競輪ファンが楽しめるようにできれば――、そんな気持ちでやらせていただいている。グラビアファンと競輪ファンの潤滑油になればと、時折、笑いを織り交ぜながら収録しているわけだけど、当たり前だがギャラが発生している。

 出番を控えていた俺は、スタジオの近くにある喫煙所でタバコを吸っていた。喫煙者には世知辛い世の中。スタジオの近くには、小さな喫煙所が一つあるだけ。これから番組に出る、あるいは関わっているという人は、すべからくその喫煙所にやってくる。

 若手芸人……といっても年頃は、俺とそんなに変わらないくらいだろうか。ほとんど接点を持ったことがない芸人たちが、喫煙所にぞろぞろとやってきた。吉本所属ではないことはたしかだった。

 何かのオーディションでもあったのだろうか。ABEMAの収録でやってきただろう彼らは、世間的に言われている「売れていない」という領域に属する芸人たちだと思う。俺も、世間的には同じように見られているだろうから、彼らをくさす気持ちは一切ない。描写をするとき、「売れていない」と書くのがもっとも伝わるだけであって、それ自体どうかと思っている。

 あまり大きくはない喫煙所だから、全員は入れない。列を成す形で彼らは待っていた。

 紫煙が舞う静かな空間。ポツリと、俺の隣にいた芸人の一人が、「どうですか最近? 水道管の仕事って入れてます?」と話し出した。

 『いや~あんまり入れてないんだよね』

 「あれってマックスどれくらい入れるんですか?」

 『月20は行けると思う。その合間に Uber もやってるから、合わせると月30万円ぐらいは稼げるんだよ』

 「そうなんですか。 Uber ってコツとかあるんですか?」

 『ああ、あるよ』

 ――。耐えられず、タバコをもみ消した俺は、外に出ていた。水中にいるような息苦しさ。よりによって喫煙所。これが営業の楽屋などであれば、ハレの雰囲気が充満している場だから受け止め方にもバラエティ性が生まれる。

 だけど、静寂に包まれた世界の片隅で、芸人のリアルを聞くのは覚悟がいる。たまたま聞いてしまった実情ほど、苦しいものはない。

 本人が幸せだったらそれでいいんだ。もしかしたら達観しているのかもしれない。お笑いは生業じゃなくて趣味――そう割り切っている可能性だってある。お笑いは、たしかに楽しい。だから、やめるタイミングがなかなかわからなくなる。でも、趣味として続けるなら、こんなに幸せなものはない。そう割り切れたら。

 番組収録でお金をもらう仕事に対して、俺は「ありがたい」と口にしているけど、喫煙所の残響が跳ね返ってくる。本当の意味でそう思っているんだろうかと自問自答してしまった。

 この収録を何回か行えば、バイトに明け暮れながらもお笑いを愛してやまない彼らの一カ月と同じになる。でも、それは言いっこなし。それが人生だ。 明日は我が身。

 普通の感覚でいることは大事だけど、それ以上に芸人は浮世離れてなんぼってところもある。

 1時間で終わる仕事だけど、たった5000円か……なんて考えることもある。でも、時給1000円の仕事だったら5時間働かないといけない。

 1日1万円を稼いだとしても、飲みで15000円を使ってしまったら5000円のマイナスになる。「だから今日は1万円以内で収めよう」。若い頃は、そういう生き方はしたくないと心に決めていた。

 歳を重ねていくと、世の中のことが分かってくるからか、時間やお金に対してぐるぐると考えてしまう。ぐるぐるぐるぐる考えるのは必要なことだと思いたい。でも、貧乏臭くならずに。

 

 

※徳井健太の菩薩目線は、毎月10日、20日、30日公開予定です

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