サッカーW杯ロシア大会が開幕しました。このコラムの掲載号が出る頃には、大会も準決勝を迎えます。私は、サッカー協会の理事をつとめているご縁で第2戦のセネガル戦から現地入り。本田選手の劇的な同点ゴールを目の前で見届けたあと、モスクワでのフランス対デンマークの試合を視察しました。そこからボルゴグラードに移動し、日本が2大会ぶりの決勝トーナメント進出を決めたのを見届けました。歓喜から一夜明け、いま移動中に本稿を書いています。
読者のみなさんがお読みになる頃、西野ジャパンがどのような結果になっているのか、執筆中のいまは神のみぞ知るところです。しかし、西野ジャパンが「歴史的」な成果を残したのはたしかです。
西野采配の真骨頂は、0−1で迎えたポーランド戦の終盤でしょう。日本と勝ち点、得失点差で並ぶセネガルが、コロンビアにリードされた一報が入るや、無理に勝ちにいかず、フェアプレーポイントでの予選通過を狙うという「負けない」選択をしました。ネット上では試合後、「なぜ勝利を目指さないのか」などと非難する意見が噴出しました。そうした背景には、ルール以上の何かを求める日本人気質、正々堂々の勝負を好む潔さもありそうです。
ちなみにロシアなどのメディアも西野采配を酷評していたようですが、サッカー大国スペインの名門紙「マルカ」は「勝者として胸を張っていい」と評価していました。
冷静に考えれば、セネガルがコロンビアに追いつき、引き分ければ「賭け」は暗転するかもしれませんでした。それでも西野監督は、長谷部キャプテンに方針を伝え、長谷部選手は途中出場する前からグラウンドの中にいる仲間たちにコロンビア対セネガル戦の状況と、監督の方針を丁寧に伝言。見事に逃げ切りました。ここまで割り切った采配は日本サッカーの歴史で見たことがない画期的なものでした。
西野采配を議論するとき、うわべだけを見て「勝てばなにをやってもいい」という擁護も、「勝つためならなにをやってもいいのか」という批判も、思考停止です。ただ、西野監督の決断は、冷静に目の前の現実を直視し、最適な打ち手を出すためにすべてを考え尽くし、そしてルールとレギュレーションを駆使した上でのこと。政治やビジネスで先送りばかりしているリーダーたちと真逆の姿に、大迫選手の活躍と同じく「半端ない」と感じ取った人は少なくないはずです。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授、日本サッカー協会理事)