20世紀も終わりに近づいたころ、アメリカに暮らす82歳の女性がオーストリア政府を訴えた。訴訟の内容は、第二次世界大戦当時、ナチスに奪われた後、オーストリアの美術館所有となっていたクリムトの名画の返還。世界を仰天させた裁判の結果は予想を覆すものだった…! 『黄金のアデーレ 名画の帰還』。監督のサイモン・カーティスは前作『マリリン 7日間の恋』でも、実在する女性の心情を豊かに描いた。
「特に意識してそうしたわけでは無いんですが、やはり魅力的な女性を描くのは楽しいですね(笑)。特に今回は、82歳という年齢で政府を相手取って訴訟を起こしたマリアの姿に深く感銘を受け映画化したいと強く思ったんです」
一つの名画に隠された女性の人生を見事な映像美で丁寧に綴る。
「マリアが幼かったきらびやかな時代、戦争が悲劇をもたらした灰色の時代、そして現代と、色調を変えながら撮影しました。まるで3本の映画を一度に撮っているようで、なかなか大変でした(笑)」
そんな中で大きな存在感を見せたのがマリア役のヘレン・ミレン。
「彼女なくしてこの作品を撮るつもりはありませんでした。実際、彼女は本当に素晴らしい女優で、マリアの過去の重みを見事に表現してくれました。実はすごくお茶目な人で、彼女とライアンのユーモアがこの作品を重くなり過ぎないようにしてくれたと思います」
監督は、名画〈黄金のアデーレ〉を実際に見たときの感動を語った。
「図版などでも見ていましたが、実際に見たときの感動は言葉にできないほどでした。皆さんにもぜひ実物を見てもらいたいと思いますが、その感動が本作の映像から伝わればうれしいですね」