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「9月入学」頓挫でも残った宿題【鈴木寛の「2020年への篤行録」第81回】

2020.06.08 Vol.730

 新型コロナウイルス感染対策による一斉休校の長期化を受けて急浮上した「9月入学」移行ですが、少なくとも今年度や来年度からの導入については、結局1か月ほどで見送りの公算になりました。

 私は前回のコラムで大学の議論と小中高の議論を分けるべきと申し上げました。そして特に影響の大きい小中高については、保護者、児童・生徒、教職員の意見も十分に踏まえ、当事者である校長先生に、意見を集約してもらうべきと申し上げました。休校中だったので、子どもたち、保護者の意見がどこまで出てきたかは微妙なところですが、全国連合小学校長会は5月14日、声明文を出して拙速な議論に事実上の待ったをかけ、全国知事会でも、長野県の阿部知事が冷静に議論をリードされました。

 5月中旬にNHKが「9月入学」に賛否を尋ねた世論調査では賛成41%、反対37%とほぼ二分する状況に。ただでさえ大きな制度変更には世論の力強い後押しが不可欠です。世の中全体がコロナの第一波をしのぎ、経済社会活動の再開が最優先という中では、時間がなさすぎました。

 この決着で、賛成派も反対派も、お互いほっとしてもらっては困ります。今、一番、検討しなければいけないのは、大学入試のタイミングです。私は、今の入試のタイミングを遅らせて、高校卒業後の4月とか5月に合格発表とすべきだと思います。
 大学の入学は、慶應のSFCはじめ春・秋併用となっており、学部ごとに各大学の学長が定めることができることとなっていますので、高校関係者と大学関係者が協議して、大学の秋入学枠の定員を大幅に増やすべきだと思います。秋の入学までの時間は、学力が十分な人たちは、ギャップ・タームにして、様々な実地経験を国内外で積んでいけばいいですし、学力が十分でない人は、改めて、大学での学びについていけるような、学び直しを秋までにやり直すことにあてていけばいと思います。

 さらに、高校の修得主義の要素を増やして、学力修得が不十分な場合は、卒業を半年のばして、3年半の通学を可能にすることも検討すべきです。一方で、学力修得が確認できれば、授業時数にかかわらず単位認定を行い、2年半での早期卒業も認めるべきです。現在は、定時制だけが修業年限を3年以上としており、9月の卒業も認めていますが、全日制も同様に扱いにすべきです。ぜひ、こちらの議論もしっかりと行ってください。(東大・慶応大教授)

9月入学・新学期、賛成は53%「大人だけが勝手に議論を進めている」10代向けラジオ番組でアンケート

2020.05.13 Vol.Web Original

 人気ラジオ番組 『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FMなど、毎週月~金22時~)は、12日放送の番組で、9月入学または新学期について行ったアンケートの結果が、賛成は53%、反対は47%だったと発表した。

 番組は、LINE MUSICとタッグを組んで、「学校の9月入学・新学期について」のアンケートを5月7日から11日にかけて実施。3万7471名が回答した。

「9月入学」急浮上は良いが、改革をサボるな【鈴木寛の「2020年への篤行録」第80回】

2020.05.07 Vol.web Original

 新型コロナウイルス感染拡大の長期化に伴い、学校の9月入学論が急浮上しています。安倍総理も4月29日の衆議院予算委員会で「前広に様々な選択肢を検討していきたい」と踏み込みました。

 9月入学への移行はすでにご承知のように、海外留学がしやすく、また逆に外国人留学生の受け入れもスムーズになるメリットは非常に大きいと思います。さまざまな価値観に刺激されることは重要です。

 知らない土地、違う文化、言葉の壁などで悪戦苦闘するもの。しかし、それが「財産」をもたらすのです。私の学生時代で一つ大きな後悔があるとすれば、長期留学をしなかったことです。留学未経験の私がそう言えるのは、社会に出て30歳になる前、ジェトロに出向し、オーストラリアでシドニー大学の研究員として1年駐在する機会がありました。

 当初は寮に1人住まいだったのですが、英語力向上も目的に、当時の日本では珍しかったシェアハウス形式の住居に引っ越しました。2人のルームメイトと過ごし、語学力はもちろん外国人との意思疎通できることの自信も培えました。この1年の経験は、役所、議員、大学教員と舞台を変えても世界各地のキーパーソンと直接やり取りできる武器をもたらしました。

 また、東大の前濱田総長の9月入学改革構想に協力し賛同していましたので、“バリバリの9月入学論者”と思われているようですが、両手をあげて賛成かといえば、いくつか意見があります。

 まず、私は、大学の議論と小中高の議論を分けるべきだと考えます。大学については、すでに大学の判断で9月入学にすることができるようになっています。慶應SFCは学部も大学院も、東大も公共政策大学院は、9月、4月どちらでも入学可能です。大学は、秋・春入学併用がいいと思いますし、大学が決めることです。高校の卒業時期とのずれですが、ギャップタームとして、有意義な時間になりますし、入試も、むしろ高校卒業後に行えばいいので、公立校長は喜ぶでしょうから、時期のずれは、全く問題ありません。

 小中高は、私がまず申し上げたいことは、素人考えの議論はやめて「小中高の校長に、意見を集約してもらいましょう。外野は、その議論をじっと見守りましょう」ということです。当然、校長たちには、保護者、児童・生徒、教職員の意見もよく取材してもらって決めてもらいます。もっといえば、こうしたときに校長たちが黙っているのは、どうかと思います。自分たちの現場なのですから、もっと、能動的・主体的に議論し発信してほしいと思います。

 これまでも、何度となく、秋入学は検討されてきましたが、便益とともに、新たな負担や混乱も生じます。そのトレード・オフを見極めて、判断してください。今年の導入であれ、来年になるにせよ、校長たちが新たな準備にエネルギーを注げるのか、現場でないとその実現可能性は判断できません。校長たちが出した判断ならば、どんな結論であっても、みんなで応援しましょう。

 今回、9月入学を、政治家や一部の首長たちが提起し、メディアが乗っかっているのは、論点ずらしであったり、視聴率狙いのネタづくりのような気がしてなりません。

 つまり、長らく教育にしっかり投資してこなかったツケがこの局面で回ってきていているのです。平成後半にやるべきだった改革をサボってきた責任をうやむやにする論点ずらしにしか、私には、見えないのです。

 すでに3月の一斉休校から2カ月以上が経過。連休明けには緊急事態宣言の1か月延長が正式決定される公算です。6月に事態が好転しているか予断を許さない中で、すでに小中学生の生活リズムの乱れの報告があり、学力低下への懸念が強まっています。

 頼みのオンライン学習も、文科省調査(4月16日)では、「双方向型のオンライン指導」ができている学校はわずか5%。教育委員会作成の動画活用(10%)、それ以外のデジタル学習(29%)を含めても半数に届いていません。OECDとハーバード大学が共同で緊急調査していますが、新型コロナになってからのオンライン授業の利用状況は先進国最低です。

 なぜ、そうなってしまったのでしょうか?教育の情報化だけに議論を絞れば、機器と通信環境については市町村長、オンライン学習を立上げ運営できる人財の確保と育成については国政と知事の責任です。これまで教育の情報化や教育人材の充実をサボってきた地域の首長や、教育予算確保に関心を示してこなかった政治家やメディアが、突然、9月入学に躍起になっているのは、どうも解せません。

 小中高の「9月入学」は、もちろん意味はあります、それだけに、遅れたオンライン学習導入の責任をごまかすための議論に、使われてなりません。真に子供たちの未来のための真摯な議論のなかで決めていってほしいものです。(東大・慶応大教授)

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