もともとは雑誌の取材で会った編集者に「小説を書きませんか?」と声をかけられたのがきっかけ。初めて小説を書くにあたって、題材は身近なものにしたほうが書きやすいと思った?
「以前エッセイを出していたので、業界とは別のことを書きたいなって思っていたんですが、小説としての処女作なので今の私にしか書けないものを書くべきなのでは、という意見をいただきました。確かに私は社会人経験がこの業界でしかないので、やはり私に書けるのはこれしかないかなって思いました」
4つの物語。第1章は北海道の釧路出身のAV女優のお話。出てくる子たちのエピソードや設定は、AVの世界で実際にあるようなもの?
「登場人物については、この業界に絶対いるだろうなっていう女性が書けたような気はします。土地に関しては、北海道がもともと好きだったうえに、好きな作家さんの作品の舞台が北海道とか東北が多かったので、どんどん北海道に興味を持つようになりました。そして実際に行ったりしているうちに、いつか小説を書くならここ出身の主人公で書きたいなって思うようになりました。釧路にはプライベートでも行ったことがあるんです。釧路湿原に行ったんですが、あの感じがすごく好き。冬で、雪があって、壮大な景色過ぎて一人で涙して帰ってきたくらい。湿原まではタクシーで行ったんですが、運転手さんに“この子一人で釧路湿原に行くなんて、ひょっとして自殺するんじゃないか?”って思われたみたいで、すごく気を使ってくれて(笑)、帰るまで待ってくれていたんです。 “大丈夫です、自殺しないんで。見に来ただけなんで”って(笑)」
人気AV女優がAVを題材に小説を書くと聞くと、エピソードは体験したこと、登場人物は分身というふうにとらえられがちだが、この作品は決してそういう造りにはなっていない。
「最初プロット通りに書いていったんですが、定型文のようなものになってしまったんです。なので、次の段階では自分が好きな台詞を入れるときにはどういうシーンだったらこの子は動いてくれるかな?といったことを考えて書くようにしていったら、書きながら登場人物が動いてくれるようになりました」
紗倉と登場人物が二人三脚で動いている感じ。
「歩み寄ってくれた気はします。相性が悪い子もいましたが、すっと書けた子もいた。第1章の彩加は釧路から、第2章の桃子は札幌から東京に連れてきた。第3章の美穂は撮影で三島に連れていきました。みんなを私の事情でいろいろと振り回してしまいました(笑)」
タイトルはなぜ『最低。』に?
「小説の中にも1個も最低というワードは出ていないし、話の流れ的にも“そんなに最低かな?”と感じる方もいらっしゃると思います。でも、どの仕事にも表と裏があるように、この業界にも明るいところと暗いところがあって、この仕事を選んだからには、なにかしら誰かを傷つけて、頑張ってる方がいらっしゃると思うんです。エッセイでは自分のことばかりで、主に業界の明るいところを書いていたんですが、今回は私ではない、全く違う4人の女性の話を書きたかった。そしてその子たちだったら、暗い部分についてどう思いながら活動しているんだろうって考えた時に、“最低”というつぶやきは心の葛藤や親などに対しての罪悪感、恋人に対しての裏切りのような感覚などが、あふれ出ている言葉なのかな?と思って、このタイトルにしました」
周囲の感想は?
「ふだん本を読まれる方からはいろいろな感想を聞かせていただいているんですが、いつもイベントなんかに来てくださるファンの方は活字が好きじゃない方が多いみたいです(笑)。アダルト関連だと年齢制限があるんですが、こちらはないので中高生の男女のグループがよくサイン会に来てくださっています。そういった意味でも感想の幅はだいぶ広い、いつもとは違うなって実感しています」
時間が許す限り、徹底的に校正などにこだわってしまい、出版社に缶詰になって作業した時期もあったという。
「クリスマスは角川さんにいました。三が日は実家に帰ったんですが、空気の読めない母親の“遊びに行こうよ”という誘惑との戦いでした(笑)。母親からはLINEで感想が送られてきたんですが、長すぎるのと連投されまくっていて、ちょっと読む気にならなくてまだ読んでいないんです(笑)」
今後、小説家や物書きとしての活動も増えてきそう。2作目も早く読んでみたい。
「できたらいいなとは思っているんですが、小説を書いてみて人生経験がそんなに豊富じゃないということを実感しましたので、今後は自分のプライベートを充実させることができたらいいなとは思っています。最近はずっと、休日があってもぐうたらして家に閉じこもって、ルンバを飛ばして寝るというだけの日々だったので、次の本を書くときはいろいろなところに行って、感性を養ってからやりたいなって思っています」
この小説で初めて紗倉まなを知る人も多い。そして紗倉にはこれをきっかけに今後さまざまな分野での活躍が期待される。
「エロ屋としての活動がほとんどなので、本屋さんで見られた方も誰だろう?って思っていると思います。私はこうなりたいというビジョンが明確にあるわけではないので、いただける評価のまま、いただけるお仕事があるなら、そのひとつひとつに挑戦していきたい。やりたいことは全部できたらいいなと思ったりもしているので、“何でも屋” になりたいと思っています」
自らを“エロ屋”と称する紗倉の考える“何でも屋”は紗倉のツイッターを見てもらえればなんとなく分かる。AV作品に関するつぶやきと小説に関するつぶやきが入り乱れ、ちょっとしたカオス状態! 小説をきっかけに紗倉のエロ屋の部分にも興味を持った人は、せっかくの出会いなので取りあえず一本見てみることをお勧めしたい。 (THL・本吉英人)