東京オリンピックが紆余曲折を経て開幕しました。個人的には、国会議員時代に超党派で招致をめざした議連の事務局長を務め、国立競技場の建て替えに際しては明治神宮などの関係者の調整に奔走しました。ただ、そうした思い出もかすんでしまうほど、コロナ禍での大会開催を巡っては国論が割れました。また、感染防止で無観客となり、日本の子どもたちや若い人たちが世界の一流アスリートのプレーをその目でみられなくなり、観戦で訪日する観光客もいなくなるなど、招致時に期待された国際交流が大きく制約されことがもっとも悔いが残ります。
とはいえ、開催国として選手たちの健闘に勇気をもらった人たちも多いでしょう。本稿が掲載される頃に閉会式を迎えますが、前半戦を終えた時点(8月1日)で、日本勢の金メダル獲得は中国、アメリカに次ぐ17個。銀と銅を含めた総合でもオーストラリアと並ぶ5位につけています。誰もが金を有力視していた選手たちの思わぬ失速もあったものの、スケートボードやサーフィンなどの新競技で日本勢が大活躍しました。
そんなオリンピックシーズン真っ盛りの中、嬉しいニュースが届きました。世界107か国の数学にすぐれた高校生が参加する「第62回国際数学オリンピック」で、日本から参加した6名の高校生たちが全員メダルを獲得したのです。我が母校、灘(兵庫県)の2人も銀と銅をそれぞれ取り、東京都からは開成、筑波大附属駒場、麻布の3人が参加。そして開成3年の神尾悠陽さんが日本勢2年ぶりの金メダルに輝きました。
この大会、欧米の歴代メダリストたちの中には、日本でタレント活動をされていておなじみの数学者ピーター・フランクルさん(ハンガリー出身)がいます。フランクルさんは1971年の金メダリストでした。メダリスト出身の数学者で、「数学分野におけるノーベル賞」と言われるフィールズ賞を授与された方々が多数おられます。
日本のメダリストたちも国内外の名門大学で数学者として研究活動をされていて、将来同賞を獲得する人が出てくるのではと期待もしています。また、研究者だけでなく、世界的に有名な外資系証券会社のトレーダーとして活躍するなど実業界でその才覚を生かしているOBもおられます(ちなみに彼は灘OB)。オリンピック、パラリンピックのこの時期、「知のアスリート」たちの活躍にもご注目いただければと思います。
(東大、慶應大教授)