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白井昇×長塚圭史の強力タッグ『華氏451度』

2018.09.20 Vol.710

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『華氏451度』

 華氏451度というのは紙が燃え始める温度のこと。本作は本の所持や読書が禁じられた架空の社会を舞台に、SF界きっての抒情詩人といわれるレイ・ブラットベリが現代社会を鋭く風刺したディストピア小説で1966年にはフランソワ・トリュフォーによって映画化もされている傑作。今回は長塚圭史が小説から脚色して新たに上演台本を作成。白井晃×長塚圭史の強力タッグで舞台に挑む。

 物語の舞台は書物を読むことが禁じられた近未来。本を所持することも禁じられ、見つかるとすぐに「ファイアマン」という期間が出動し本を焼却したうえ、所持者は逮捕されてしまう。そのファイアマンの1人がある女性と知り合ったことをきっかけに、これまでの自分の所業に疑問を持つことになる。彼は隠れて持ち出した本を読むようになり、そして追われていく身となっていくのだった。

 原作が発表されたのが1953年。当時は本がラジオに取って代わられるのでは、という危機感から生まれた作品なのだが、65年が経った現在の日本ではもっと他の意味合いも読み取れそうで興味深い。

野田秀樹の代表作『贋作 桜の森の満開の下』NODA・MAP

2018.08.27 Vol.709

 野田秀樹の代表作であり、再演を期待する声も多かった『贋作 桜の森の満開の下』がついにNODA・MAPの公演として上演されることとなった。

 同作はかねてから自身を「安吾の生まれ変わり」と公言してはばからなかった野田が坂口安吾の「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」を下敷きに書き下ろしたもの。1989年に劇団 夢の遊眠社で初演され、1992年に再演。2001年に新国立劇場主催公演で再演。昨年には八月納涼歌舞伎「野田版 桜の森の満開の下」として歌舞伎でも上演された。

 今回の上演については今秋にフランスで開催される「ジャポニスム2018」で、国立シャイヨー劇場の芸術監督ディディエ・デシャンより、野田秀樹の『贋作 桜の森の満開の下』を上演してほしいという要請があったことがきっかけ。「それならば」と野田が考えられる限り最高のキャストとスタッフにオファーをしたところ、すべての俳優、スタッフが「OK」ということでいつにもまして豪華な布陣となった。

 まずは9月1日から12日まで東京芸術劇場プレイハウスで上演され、その後、パリ、大阪、北九州を経て11月3〜25日に再び東京芸術劇場プレイハウスに戻って来る。万一9月に見逃してしまった人は11月にぜひ。

絶妙なキャスティング 石井光三オフィスプロデュース『死神の精度〜7Days Judgement』

2018.08.22 Vol.709

 人気作家・伊坂幸太郎の作品は今では多くのものが映画化、舞台化されているが、初めて舞台化されたのはこの『死神の精度』。2009年のことだった。

 当時、伊坂作品はエンターテインメント性あふれる現実離れした独自の作風もあり、映画化されるのが主流だった。しかし本作は当時、小説とは違う時間と空間を共有する“ライブ”ならではの作品として、伊坂ファンからも演劇ファンからも好評を得るものとなった。

 物語の主人公は「死神」。死神の仕事は「死」を実行される対象となった人間に近づき1週間調査し、その実行が「可」か「見送り」かを判断し報告するというもの。死神の千葉の今回の仕事は藤田というヤクザの生死の見定め。藤田は殺された兄貴分の敵を取ろうともくろむ昔気質のヤクザ。そのそばには藤田に心底ほれ込む若いヤクザ・阿久津がいた。そんな彼らの生活に千葉が加わったことで彼らの運命は大きく加速していくのだった…。

 死神に萩原聖人、ヤクザにラサール石井というのも絶妙なキャスティング。

 脚本・演出は初演に続き和田憲明が担当。和田は初演後も2011年には『オーデュボンの祈り』を戯曲化、2015年には『死神の浮力』をリーディングで取り上げるなど、伊坂作品と深く関わっており、今回は初演に大きくプラスアルファした作品を見せてくれそう。

書くことの自由をめぐる、みのほどしらずな物語(劇)ヤリナゲ『みのほど』

2018.08.20 Vol.709

 三鷹市芸術文化センターの名物企画である『MITAKA “Next” Selection』も今年で実に19年目を迎える。

 今年は8月〜10月にかけ「(劇)ヤリナゲ」「ぱぷりか」「かわいいコンビニ店員飯田さん」の3劇団が上演する。

 トップバッターの(劇)ヤリナゲは2012年に越寛生が立ち上げた劇団。うかつに笑えないようなデリケートなテーマを持ち前の適当さで笑えてしまう舞台に仕立て上げる。2015年には越が『スーサイド・イズ・ペインレス』で「佐藤佐吉賞最優秀演出賞」を、2016年には『緑茶すずしい太郎の冒険』が「CoRich 舞台芸術まつり!2016春」の最終審査に選出されるなど着々と実績を積み上げている劇団だ。

 今回のお話は「書くことの自由をめぐる、みのほどしらずな物語」とのこと。意味深でちょっと気になる。

ブロードウェイミュージカルの金字塔『コーラスライン』が再来日

2018.08.15 Vol.709

 ブロードウェイミュージカルの金字塔的な傑作『コーラスライン』が再来日。

 新作ブロードウェイミュージカルのコーラスダンサーのオーディション会場を舞台に成功を目指すダンサーたちの姿を描く。わずか8つの枠をかけてニューヨーク中のダンサーたちが集まり選考に臨む。最終選考に残った17名は演出家のザックに「履歴書に乗っていないことを話してほしい」と語り掛けられ、それぞれの過去を語り始める。ダンスに魅了されたきっかけ、落ちこぼれだった過去、身長が足りずにバレエダンサーになるのをあきらめたこと……。それぞれがつらい思い出を赤裸々に話し始める。そしてまた尋ねられる「もし、踊れなくなったらどうする」?

 上演されるのは、1975年にオフ・ブロードウェイで開幕したマイケル・ベネットの初演版を忠実に再現したリバイバル版(2006年)。オリジナルのヒットは触れるまでもないが、トニー賞にノミネートされたリバイバル版は、日本でも2009年に上陸し好評を博し、2011年にも再び来日を果たしている。今回はそれに続く3回目の来日となる。生演奏。英語上演。日本語字幕あり。9月には東京凱旋公演もある。

が~まるちょばの最新ツアー、東京凱旋公演が決定

2018.08.12 Vol.Web Original



 サイレントコメディーデュオのが~まるちょの最新ツアー「が~まるちょば サイレントコメディー JAPAN TOUR 2018」の東京凱旋公演が決定した。日程は、年明け1月12日で、TBS赤坂ACTシアター。

 最新ツアーは、7月に東京・新国立劇場でキックオフ。現在は、スコットランドのエジンバラで開催されている「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」に参加中で、帰国後はその勢いのまま、ツアーを継続する。

 今回のツアーのステージは、今まで以上に「笑い」を意識した演目で構成している。ストリートパフォーマンスを生かした「が~まる SHOW」、短編のショートスケッチ、そして新作長編で構成されている。

 現在、主催のサンライズプロモーション東京でチケット先行販売の受付中。

優馬×松岡×雅俊のトリプル主演で三世代の男の物語「見ると、ごはんがおいしくなる」

2018.08.11 Vol.Web Original



 舞台「ローリング・ソング」のプレスコールが11日、紀伊國屋サザンシアターで行われた。鴻上尚史が書き下ろし、森雪之丞が作詞・音楽監修をした新作オリジナル音楽劇で、中山優馬、松岡充、中村雅俊がトリプル主演し、20代、40代、60代の世代が異なる男たちの物語を描く。

 3つの別々のシーンを鴻上の説明を聴いてから見るというユニークなプレスコール。鴻上が話している間に次のシーンの演者が顔を出したり、鴻上の「(中村)雅俊さんは結婚詐欺師なんです。楽しんでやられてます」という説明に、中村は足を止めて、「楽しんでまーす」とお茶目なところを見せて報道陣を笑わせた。

 劇中歌われる楽曲は1曲以外新曲。「この曲を歌ってほしいと中村さんにお願いした」という説明でスタートしたシーンで歌われたのは中村の『あゝ青春』。43年前に発表した楽曲を、43歳年下の中山とともに、エモーショナルに歌いあげ、メッセージを語った。

過去と現在はつながっているということを感じさせる作品 ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』

2018.08.01 Vol.708

 ヨーロッパ企画は同志社大学の演劇サークルに所属していた上田誠、諏訪雅、永野宗典が1998年に旗揚げした劇団で今年で20周年を迎える。この間、ずっと京都を拠点に舞台はもちろん、映像作品、テレビ、ラジオ、イベント、雑誌連載など幅広い分野で活動を続けてきた。

 最近は作・演出を務める上田を始め、劇団員も多忙を極め、年に1回全国を回る形で本公演を行っている。今年は20周年の記念イヤーということで、代表作である『サマータイムマシン・ブルース』とその15年後の話となる『サマータイムマシン・ワンスモア』を交互上演するという豪華版となった。

『サマータイムマシン・ブルース』は映画化もされ、ヨーロッパ企画の名を世に大きく知らしめることになった作品で、その面白さは鉄板。13年ぶりの再演とあって、古くからのファンには待望の、新しいファンにとっては“やっと”の再演。

 せっかくの機会なのでぜひ2本見比べてみたいところ。

【日時】8月17日(金)〜 9月9日(日)(開演は〈サマータイムマシン・ブルース〉17・22・24・27・31・5日19時、18・19・25・26・1・8日13時、30日14時〈サマータイムマシン・ワンスモア〉18・25・1・8日18時、20・29・30・3・7日19時、23・6日14時、2・9日13時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】本多劇場(下北沢)
【料金】全席指定 前売4500円、当日5000円/学生シート 3000円(前売のみ・チケットぴあのみ取扱い・引換時要学生証提示)
【問い合わせ】サンライズプロモーション東京(TEL:0570-00-3337=10〜18時 [劇団HP] http://www.europe-kikaku.com/ )
【作・演出】上田誠【出演】石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力/早織 (ワンスモアのみ出演)藤谷理子、城築創、岡嶋秀昭

過去と現在はつながっているということを感じさせる作品  燐光群『九月、東京の路上で』

2018.07.11 Vol.708

 燐光群は作・演出を務める坂手洋二の社会性の強い作品の他にも、アメリカのヘイト・クライム殺人事件の取材をもとに作られた『ララミー・プロジェクト』(2001年)を皮切りに「報告劇」も多く翻訳上演してきた。

 今回はノンフィクション作家の加藤直樹氏が関東大震災を時系列で追って検証したルポルタージュを劇化。現代社会の状況と重ね合わせた「ドキュメンタリー・ドラマ」という新たな試みに挑戦する。

 2013年、ヘイトスピーチの怒号が飛び交う大久保の路上に立った男がその後、1923年の関東大震災で多くの外国人が殺害された現場をめぐり、そこであったことをブログという形で人々に伝えていった。観客はそれを元に出版された『九月、東京の路上で』を通して95年前の東京を「追体験」することになり、否が応でも過去の出来事がそこにとどまらず、現代へと続いていることを痛感することになる。

 原作の加藤氏をはじめ計10回のアフタートークが設けられた。興味深いゲストが揃っているので、こちらも合わせて楽しみたい。

至極の一人芝居『フリー・コミティッド』

2018.06.19 Vol.707

 実力派の俳優として舞台を中心に活躍し、NHKの朝ドラ『マッサン』にも出演するなど、今では映像の世界でもひっぱりだこの成河が初の一人芝居に挑む。

 その作品は劇作家、女優、TVプロデューサーとマルチな活躍を見せるベッキー・モードが、劇作家であり俳優のマーク・セトロックの協力を得て作り上げた傑作コメディー。1999年9月にニューヨーク・マンハッタンのチェリー・レーン・シアターで初演され、同年度の「タイム・マガジン」誌の演劇トップテンに選ばれた作品だ。

 売れない俳優でマンハッタンの超人気レストランの予約電話受付係をしているサムのところにはお客から多くの電話がかかってくる。しかし店はすでに満席で、サムの仕事はなんとか予約をもぎとろうとするお客を断ること。実はサムはオーディションの結果を待っており、気分的にはそれどころではない。なのに父親までが電話をかけてきてサムを悩ませるという、シチュエーションを聞いただけで面白さは約束されたようなお話。
 成河は主人公のサムのほか、電話をかけてくる客ら合わせて38役を一人で演じる。

『アドルフに告ぐ』でドイツ人と日本人のハーフで時代に翻弄されるアドルフ・カウフマン役をやったかと思えば、『黒蜥蜴』では黒蜥蜴の部下・雨宮潤一をマゾヒスティックな演技で好演。常日ごろから振れ幅の大きい役をこなす成河なら38役も難なくこなせそう。

『フリー・コミティッド』
【日時】6月28日(木)〜7月22日(日)(開演は日月14時、火14時/19時、水木19時、金19時30分、土14時/17時30分。※5日(木)は14時、12日(木)と18日(水)は14時/19時。休演は2日(月)、9日(月)、17日(火)。開場は開演30分前)
【会場】DDD青山クロスシアター(渋谷)
【料金】全席指定 一般 6900円
【問い合わせ】チケットスペース(TEL:03-3234-9999 [HP]https://www.stagegate.jp/)
【作】ベッキー・モード
【翻訳】常田景子
【演出】千葉哲也
【出演】成河

教科書には載らない歴史の側面『海越えの花たち』てがみ座

2018.06.12 Vol.707

 劇作家の長田育恵が主宰を務める「てがみ座」はこれまで、過去を材に取り、現代の眼差しから見つめ直すといったスタンスの作品を多く作り続けてきた。

 そんな長田が今回描くのは戦後、日本に帰れずに韓国の土に還った、在韓の日本人女性たちの物語。

 このテーマを選んだ背景は長田の祖父が満州にいたこと、そして自身が高校生の時に日中青少年友好訪問団の一員として中国を訪れた時の体験にまでさかのぼる。その後、取材先での偶然の出会いから長田の思いは朝鮮半島に向けられ、2016年には第二次世界大戦後も在韓で生き続けた日本人女性たちの収容施設である「慶州ナザレ園」を訪問するに至ったという。

 本作ではこういった長田の体験をもとに、教科書には載らない歴史の側にある人々の声や思いが描かれる。そして芝居を見る者はそれを通じて、いろいろなことを考えさせられるはず。

 昨今、朝鮮半島をめぐる情勢は思いもよらぬスピードで動いている。期せずしてタイムリーな上演となってしまったが、それはそれとしてじっくりと向き合うべき作品。

てがみ座『海越えの花たち』
【日時】6月20日(水)〜 26日(火)(開演は水〜金、月19時、土14時/19時、日火14時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】紀伊國屋ホール(新宿)
【料金】全席指定 前売4500円、当日4700円、25歳以下3500円(前売・当日同一料金)/前半割引(6月20、21日)前売・当日・U25それぞれ通常料金より500円引き。※U25はプリエールのみ取扱い。入場時身分証提示
【問い合わせ】プリエール(TEL:03-5942-9025=11〜18時 [劇団HP] http://tegamiza.net/stage/ )
【脚本】長田育恵
【演出】木野花
【出演】石村みか、箱田暁史、岸野健太、実近順次(てがみ座)/桑原裕子(KAKUTA)、内田慈、西山水木、日髙啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)、半海一晃、中西良太

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