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時が経って感じ方が変わるものもあれば不変のものもある かさなる視点—日本戯曲の力— Vol. 2『城塞』

2017.03.26 Vol.687

 新国立劇場ではシリーズ「かさなる視点?日本戯曲の力?」と銘打ち、今年3月から、昭和30年代に執筆された日本戯曲の3つの名作を30代の気鋭の演出家によって上演している。今回はその第2弾。安部公房の『城塞』を上村聡史が演出する。

 同作は戦後17年が経った1962年に書かれたもので、戦争によって富を築いたブルジョア階級の責任を問う安部公房の痛烈な視点が際立つ作品。

 舞台は敗戦から17年後のある富裕層の邸。そこに住む男、その父、男の妻、家に仕える従僕、そして男に雇われた若い女による不可思議な“ごっこ”が繰り広げられていた。彼らは敗戦の記憶を持ちながらそれぞれの立場からの利己的な主張をぶつけ合うのだが、それによって、彼らのバランスが危うい状況へと変化していくのだった。

 ここで語られる特権階級意識や戦争観、愛国心といったものが過去のものととらえられるのか、もしくは身近な感覚としてとらえられるのか…。見る者の“感度”が試されることになる。

 ちなみにこの「かさなる視点?日本戯曲の力?」では3月に谷賢一が三島由紀夫の『白蟻の巣』(公演は終了)、5月には小川絵梨子が田中千禾夫の『マリアの首 ?幻に長崎を想う曲?』を演出。5月13日には3人の演出家と同劇場の芸術監督を務める宮田慶子氏によるシリーズを振り返るトークセッションを新国立劇場にて開催する。

巧みな脚本と物語の裏に隠されたテーマが実は結構ヘビー? ONEOR8『世界は嘘で出来ている』

2017.03.12 Vol.686

 本作は2014年に初演され、岸田戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた、田村孝裕にとっても代表作ともいえる作品。現代の日本でも大きな社会問題となっている「孤独死」を扱ったこともあり、観劇後に深く考えさせられる作品だった。

 日常にある「嘘」をテーマに、バカ正直に生きてきた兄と嘘ばかりついてきた弟の40年に渡る人生を描く。

 舞台は、とある1DKのアパート。ある男が孤独死をした。警察の現場検証、遺体の引き取りも終わり、2人の清掃人がやってきた。これから特殊清掃が行われるのだ。実は死んだのは清掃人のうちの一人、滝口の弟だった。遺品を整理しながら、滝口は弟の人生を思い返すのだった。

 初演時のキャストがほぼ勢ぞろい。甲本雅裕が演じる兄の実直さと恩田隆一の演じる弟のどうしようもなさのコントラストが鮮やか。現代と過去を行ったり来たりする形で物語を進ませることで、2人の人生がなぜこんなにも違ったものになってしまったのかが丁寧に描かれる。そして「嘘」というフィルターを通して見ると、兄弟どちらに肩入れするかは人によって分かれそう。

巧みな脚本と物語の裏に隠されたテーマが実は結構ヘビー? MONO『ハテノウタ』

2017.03.12 Vol.686

 MONOの作品を一言で言うと、現実にはあり得ない非日常の設定の中で繰り広げられる、軽妙かつ絶妙な会話劇といったところか。

 作・演出の土田英生の描く台詞とそのやり取りは、どのような設定においてもニヤリとさせられ、クセになる。そしてその作品を熟知したメンバーたちが具現化した舞台はMONO“ならでは”としか言いようのない、とても中毒性の高いものになっている。

 今回はボーカリストの浦嶋りんこをゲストに呼ぶなど、これまでの会話劇に音楽劇の要素をプラスした新境地ともいえる作品。

 ある薬の普及で100歳間近になっても若いままの人々がいた。服用の度合いによって老け方が違うため見た目はバラバラなのだが、みな同じ年というなんとも不可思議な風景。みんなは集まって歌い、そして懐かしい思い出話で盛り上がる。しかし未来のことを語る奴はいない。それはみな今年中に死ななければいけない運命にあるからだった…。

「死を前にした元気な人間」「元気なのに未来を考えられない」??この大いなる矛盾が生み出すシチュエーションはおかしいことはおかしいのだが、むしろほろっとさせられる。

 作品中にちょっとした社会問題を潜ませるのが土田のやり方だけに、今回もいろいろ考えさせられそうな予感。

舞台『親愛ならざる人へ』で異色の組み合わせ実現—— 奥菜恵×丸尾丸一郎

2017.02.27 Vol.685

 劇団鹿殺しの作家である丸尾丸一郎の脚本・演出による新作舞台OFFICE SHIKA PRODUCE『親愛ならざる人へ』が3月2日から上演される。

 OFFICE SHIKA PRODUCEはこれまで劇団の本公演とはちょっと毛色の違った作品を手掛けてきた。それに伴いキャストも普段では見られない、あっと驚くものが多かった。

 VOL.1(2014年1月)では歌手・絵本作家・アーティストであるCoccoを主演に迎え、VOL.2(2014年8月)では鳥肌実、森下くるみ、ISOPPといった異ジャンルから大胆にキャスティング、VOL.3(2015年8月)では鳥越裕貴、小澤亮太といった若手俳優を起用した。

 本作は2014年にNHKラジオドラマ「劇ラヂ!ライブ2014」に書き下ろした作品を舞台化するもの。主演に女優・奥菜恵を迎え、丸尾としては初めてのコメディーに挑む。奥菜が演じるのは33歳厄年の花嫁役。

 まず意外にも思える2人の接点とは?

丸尾「いつか出ていただきたいと思っていて、以前、何度かラブコールをしたことがあるんです。タイミングが合わなくてなかなか実現しなかった。今回、この作品をやるにあたって、“主人公の本宮華を誰にやってもらおう…”とすごく考えました。華は口汚い言葉を素直に吐く。そのたたずまいが女性を勇気づけるようでありながら、“正直に生きていいんだ”ということを感じさせる人。お客さんをいい意味で裏切りたいのでそういう印象ではない人、ということで考えていたら奥菜さんの顔が浮かびました。それですぐにオファーさせていただきました」

 もともと出演作を見てファンだった?

「奥菜さんには一度、劇団鹿殺しの本公演の推薦文を書いていただいたことがあったんです。あれはなんで書いてもらえたんだろう? 別にそれまでに親しくさせていただいていたわけでもないのに。楽屋でご挨拶くらいはさせていただいていたのかな…」

奥菜「私は何度か舞台を拝見させていただいていました」

丸尾「なぜ劇団鹿殺しを見ていただいていたんですか?」

奥菜「周りからすごく劇団鹿殺しの名前は聞いていたんです。それで“これは一度見ないと”と思って『岸家の夏』(2011年、青山円形劇場)という作品を見たのが最初でした」

 では今回オファーが来た時の感想は?

奥菜「私でいいんですか?という感じでした」

丸尾「僕たちはOKしていただいて小躍りしましたよ(笑)。すぐにビジュアルのイメージとか公演の全体像が浮かびました。これは作・演出家というよりは、主催者としてのイメージなんですが、奥菜さんがぽんと頭にいるだけで、作品がまとまるということがはっきりした。そして、劇団ではなかなかできないことがしっかりやれると思いました」
もう成功したも同然みたいな。

丸尾「はい。まだ脚本は出来上がっていなかったんですが、奥菜さんを頭に置いて書き進めることで、舞台の使い方も含めたイメージがまとまっていきました」

 稽古場でのお互いの印象は?

奥菜「けっこう激しい…激しいというと変ですね(笑)。愛のむちという感じで、こういう環境でお芝居ができる皆さんがうらやましくなっちゃいました。ちゃんとビシバシ言ってくれる演出家がいて、そういう環境でもまれる。こういう稽古場にいられるだけでも刺激を受けるし、身の引き締まる思いです(笑)」

 稽古場で罵倒はされたりは?

奥菜「まだされてないですけど(笑)。これからかも(笑)」

丸尾「奥菜さんは求心力がすごいんです。まず、見てしまう。それは外見のことではなくて。吸い込まれてしまう力というのかな。どうしても劇団鹿殺しの劇団員たちは発散するのが得意で外に外に出していくんですが、奥菜さんは内に秘めていくものがあるから、物語がすごく入って来る。もうひとつすごいのは、演技において嘘をつかないということ。自分が分かっていないところで“こんな感じなんでしょ”といった分かったふりをしない。だから“いま感情の流れがはっきりしていないんだな”ということが分かる。本当に嘘がつけない人なんだなということが分かるから話しやすい。それは普段ではもちろんですが、今回の物語では、華には思ったことをしっかりと言ってほしいということもあって、特に重要なことなんです。そこはごまかしてほしくない。役者って下心がいっぱいあるんです。目立ってやろうとか、こう見えているかしら?といった邪念も入るものなんですが、奥菜さんはシンプルに物語に取り組んでくれているのでやっていてすごく楽しいし、みんなにも見習ってほしいと思います」

 稽古場では丸尾のきめ細かい演出に真剣な眼差しで聞き入る奥菜の姿が印象的。

奥菜「演出がものすごく丁寧で、そして情熱を持たれていますよね。ビジョンが明確だから、私が悩んでいることも相談しやすいし(笑)、話も聞いてもらえるので、とてもやりやすいんです」

 奥菜は約2年ぶりの舞台出演。ちなみに舞台に関してはどういう距離感?

奥菜「舞台は一番好きで、一番やりたいと思っているんです」

丸尾「ちょうどいいタイミングで良かった(笑)」

奥菜「楽しい、と言っていいのかな? この稽古場でさらに喜びとか楽しさといった魅力を教えていただけたかなと思います」

丸尾「奥菜さんは舞台はもっとやったほうがいい。以前、KERAさんの作品で青山円形劇場でやられていたんですが、ああいった形状の舞台は絶対に合うと思います」

 丸尾は客演の役者や舞台経験の浅い役者の今まで見たことのない魅力をうまく引き出し、そして舞台を好きにして帰すといった印象がある。

丸尾「得してもらいたいという気持ちはあります。僕の作品に出演して、損してほしくはない。楽しかった思い出であってほしいし、お客さんにとってはこの女優さんの新たな面が見えたとか、そういうものを持ち帰ってほしいという気持ちはあります。今回の作品については、女性たちに“どうやって生きていってもいいんだ”ということを感じてほしいし、少しでも周りにいる家族とか友達なんかと、ちゃんと付き合っていかなきゃと思うような後味を残せるお芝居にしたい。でも芝居は笑って泣けるという、日常生活の楽しくないところを補うものでありたいと思っていて、そういったお芝居をしっかり作るので、ぜひ楽しんでいただきたいです」

奥菜「きれいにまとめましたね(笑)。私は不条理劇がずっと続いていて(笑)、幽霊みたいなというか、きっと皆さんが“どこ向いて喋ってるんだよ”って言いたくなるような抽象的な役がずっと続いていたので、今回は誰かとコミュニケーションを取っている時間が本当に楽しいんです。そこを丁寧に、惰性にならずに一生懸命やりたいと思います」

 公演は3月12日まで。

“こだわり”がハンパない作品 北九州芸術劇場プロデュース『しなやか見渡す穴は森は雨』

2017.02.25 Vol.685

 北九州芸術劇場では2008年から「地域色豊かな作品を北九州から全国へ発信する」同劇場のプロデュース公演を展開している。

 演劇界の最前線で活躍する演劇人を北九州に招き、約1カ月間滞在してもらい、地元の役者・スタッフとともに作品を創作する。作られる作品は時代とともに変わりゆく北九州の街やそこに住む人々の姿を描いたもので、とことん「北九州」にこだわった企画となっている。

 今回は2012年に「第56回岸田國士戯曲賞」を受賞したノゾエ征爾を作・演出に迎える。

 作品は“愛”というテーマに潔く真正面から向き合い、恨み、妬み、哀しみ、一色に染まり切れないさまざまな愛の色を描いた群像劇となっている。さまざまな“生きづらさ”を抱えた人々が“行きづらく”なっているという舞台美術にも注目だ。

 ノゾエは今回の作品について「北九州について語る作品ではなく、北九州の血が通う作品にしたい」と語っている。最近ではさいたまゴールドシアターの作・演出を手掛けるなど同世代の演劇人の中でも特に幅の広い活動をするノゾエが“北九州”という地で何を感じ、どんな作品に仕上げてくれるのか。

未亡人をめぐる記憶にまつわる物語——シンクロ少女主宰・名嘉友美

2017.02.13 Vol.684

 シンクロ少女は「愛」「性」「嫉妬」「欲」などの感情をテーマとした作品を上演させれば、同世代の劇団の中では頭一つ出ていると思わせる。3月には『未亡人の一年』という刺激的なタイトルの作品を再演する。

「ジョン・アーヴィングという作家の同名の小説があるんです。その小説が好きだったし、タイトルがものすごくいいなと思って、内容は全然違うんですがタイトルだけいただきました(笑)。内容は未亡人の一年の話。そのままですね(笑)。未亡人と周囲の人々の記憶にまつわる話を描こうと思っています」というのは主宰で脚本・演出の名嘉友美。

 物語の中心となる未亡人は誰が演じる?
「実はまだ決まっていません。私の劇団は役を決めるのが超遅いんです」

 取材の時点で初日まであと1カ月!
「こういう作り方はともかく、ここまで役の決定が遅いのは珍しいんじゃないでしょうか。外部の方に出ていただくときは普通は“こういう役で”とお願いすると思うんですが、稽古では毎日違う役をやってもらっています(笑)。稽古初日に口立てで台詞を渡して、ちょっとのシーンを作って、そこから台本にするんです」

 俳優は大変。
「それでもいいよっていう方が出てくれています。稽古では何役かやってもらうんですが、そのうちにこの人はどの役をやりたいと思っているのかといったことが見えてくるのが面白いんです」

 名嘉は登場人物に、その心情を表しているような映画音楽や洋楽を歌わせるといった独特な演出をする。
「映画をよく見るんですが、なかでもコメディーがとにかく好き。あまり歌も歌えず、ダンスもできない俳優さんたちが突然歌いだすといった種類の映画があるんですが、本人たちも踊りにいっぱいいっぱいで、無表情になっていたりするところにグッとくる。うちの俳優もみんなダンスも歌もできないんですけど、やってみたらやっぱり面白かった。あと洋楽って、個人的なことを歌っている曲が多いんです。だから“この作品に合うな。ちょっと歌ってもらおう”という感じで始めてみました」

 映画から吸収することは多い?
「映画学校に行っていたんですが、その時は全然見ていなかった。演劇をやるようになってからたくさん見るようになったし、映画っていいなって思うようになりました。アメリカのコメディー映画と日本のコメディー映画はあまり食い合わせは良くないと思うんです。でもアメリカのコメディー映画と日本の演劇は実は食い合わせはいい。真面目なヨーロッパ映画なんかを面白いという人はよくいるんですけど、アメリカのコメディーを面白いと思ったり、日本未公開のDVDを喜んで見ているような劇団の主宰さんってあまりいない。そこの隙を突こうかと思ってよく見ているうちに、面白い作品にもたくさん出会うようになっています(笑)」

 かつて『極私的エロス/性的人間』という作品で自らの体験を赤裸々に描いたことがある。
「あの作品はもともとリーディングということでお話をいただいたんですが、リーディングは見たこともやったこともなかったのでどうすればいいのか分からなかった。ドキュメンタリーというのはリーディングからは一番遠いものなんじゃないかと思って、自分のことをそのままやるというのはあまり好きな手法ではなかったんですが、リーディングだし試しにやってみようかなと思ってやってみたんですが、以降は何を書いても“これって自分のことですか?”って言われるようになったんです。失敗したなって思いました(笑)」

いろんな意味で見たことのないものを見せてくれそう コドモ発射プロジェクト『なむはむだはむ』

2017.02.11 Vol.684

 東京芸術劇場の芸術監督を務める野田秀樹の「子供の書いた台本をよってたかって演劇にすることはできないだろうか?」というアイデアのもと、劇作家・演出家・俳優の岩井秀人、俳優・ダンサーの森山未来、シンガーソングライターの前野健太の3人が集結。

 昨年夏にこども向けワークショップを行い、原案を集め、今年1月には兵庫の城崎国際アートセンターで合宿とワークインプログレスを行い作品を制作した。

 常識とか道徳といったものにからみとられた大人では考えられない、子供ならではの発想や動き、感情の揺れなどをベースとした作品??といっても出来上がりが演劇っぽいものになるのかライブっぽいものになるのかも観客には明かされていない。

 公演には乳幼児も入場できる回も設け、出入りしやすい親子席も用意するという。こう聞くと「こども向けの作品」ととらえられそうだが、決してこどもに“寄せた”作品作りではないとのこと。

 諸々、大人には理解しがたいことばかり。それゆえに、どんな作品を見せてくれるのかというドキドキが止まらない。

いろんな意味で見たことのないものを見せてくれそう M&Oplaysプロデュース『皆、シンデレラがやりたい。』

2017.02.11 Vol.684

 M&Oplaysプロデュースではこれまで岩松了、倉持裕、ノゾエ征爾といったさまざまな劇作家・演出家を迎えプロデュース公演を行ってきた。

 今回は現在の演劇界で最も注目を集める存在といっても過言ではない劇作家・演出家の根本宗子を作・演出に招いての公演。

 物語は、「一ノ瀬陸」というアイドルの「追っかけ」である3人の40代の女たちと、一ノ瀬陸の彼女を中心に展開。この3人の「負け組」と地下アイドルもやっているという彼女、そしてそのマネジャーの男も加わり、一ノ瀬陸というアイドルを中心に奇妙なバトルが展開される。

 互いの利害が絡まり敵と味方の立場がころころと変わるうちに、それなりの友情や利害で結びついていた3人の仲にも微妙な空気が流れ始める。そして彼女のエキセントリックさが徐々に露呈されていくうちに物語は思わぬ方向へと流れていく。

 根本はこれまで同世代の俳優たちとの仕事が多く、また「アイドル」に対する造詣の深さから舞台経験のない女優やアイドルの魅力を引き出すことに長けてきた。

 今回は高田聖子、猫背椿といった経験豊富な女優たちと対峙し、どのような作品に仕上げることができるのか。高田らのこれまで見たことのないような魅力も引き出してくれそう。そんな見方も面白い。

子供鉅人「下北沢演劇祭」ならではの暴挙!? 本多劇場に115人の出演者を上げる

2017.01.22 Vol.683

「下北沢演劇祭」に参加する子供鉅人は今回『マクベス』で本多劇場に初進出するのだが、「“本多劇場初”なことをやってみようということで、本多劇場の舞台に100人の出演者を上げることにしました」と言うのは主宰の益山貴司。

 これまでの最多が2003年の流山児★事務所『書を捨てよ、街へ出よう』の54人とのことなので軽くオーバー。

「HPなどでは114人になっていますが、最近、高知からどうしても出たいという人が来まして、115人になりました。そのうち劇団員は10人。年齢は18~69歳。60代以上が4人いて、さいたまゴールドシアターに出ていた方もいらっしゃいます。お金がある商業演劇とか、公共ホールが税金を使って市民劇に100人出演させるというのは、まああるじゃないですか。そうじゃない全く金がない小劇場のチームがそれをするということにちょっと誇りを感じています」

 100人をどう使う?

「メインの役は劇団員なんですが、台詞を割って、できるだけアンサンブルの方にも台詞を言ってもらうようにはしています。群集劇ですから、ガヤとメインというよりも、その100人もちゃんと意識を持った存在として舞台に上がるようにしようと思っています」

 とはいえ、そんな話題性ばかりに走った作品というわけでもない。『マクベス』は劇中では何度も「男らしさ」や「女らしさ」といったことが言及されるのだが、今回はマクベスを女優の億なつき、マクベス夫人を男優の益山寛司と男女を入れ替え配役。それによって「らしさ」というものの本質に迫っていく。

「弟の益山寛司はずっと女形をやっているんですが、彼にマクベス夫人をやらせたいという思いがずっとありました」

 益山寛司という女形がいてこその、まさに子供鉅人“らしい”作品。

「100人を舞台に上げるというのは最初はけれんだけだったんですが、とはいえあれだけの作品ですし、やる以上は上演する意味なんかも問われてくる。楽しいだけのわちゃわちゃしたエンターテインメントだけにはしたくない。そうじゃない子供鉅人の側面を見せたいと思っていて、現代社会の世相といったものをうまく取り込むことができないかとずっと考えていたんですが、ある時、新宿の街である風景に出くわした時に僕のそういう思い、マクベス、そして100人の出演者といったいろいろなピースがひとつになった。今は必然性のある100人の出演者だと思っています」

 すでに土曜のマチネに追加公演も決定。作品の面白さはもちろんなのだが、とにかく115人をどう切り回すのかといった別の楽しみもある。必見の作品。

劇団子供鉅人『マクベス』
【日時】2月10日(金)~12日(日)(開演は金19時、土14時/19時、日14時。開場は開演30分前。受付開始は開演1時間前)
【会場】本多劇場(下北沢)
【料金】全席指定 前売4000円、当日4500円/学生2500円/高校生以下1000円
【問い合わせ】劇団子供鉅人( contact@kodomokyojin.com 〔HP〕 http://www.kodomokyojin.com/ )
【作】ウイリアム・シェイクスピア
【演出】益山貴司
【出演】益山寛司、キキ花香、影山徹、億なつき、ミネユキ、山西竜矢、益山U☆G、古野陽大、うらじぬの、益山貴司 他100名

大阪で大阪の俳優たちと制作 庭劇団ペニノ『ダークマスター』

2017.01.22 Vol.683

 この『ダークマスター』は1995年にヤングチャンピオンという青年漫画誌に掲載された漫画を原作とする作品。

 舞台は超一流の腕を持つが偏屈な人間性と極度のアルコール中毒のため、全く客が来ないマスターが一人でやっている小さな洋食屋。そこにある日、一人の若者が東京から客としてやってくる。マスターは「自分の代わりにここのシェフになれ」と提案するが、若者に料理人の経験はない。マスターは若者にイヤホン型の小型無線機を渡し、自分は二階に隠れ、無線を使って若者に料理の手順を伝えるというのだが…。

 かつて2003年に駅前劇場、2006年にこまばアゴラ劇場で上演されたこの作品。今回は3年間に渡り、タニノが大阪に足を運び、大阪の俳優とワークショップを重ねて制作。物語の舞台も大阪に変え、大幅に脚本も書き換えて昨年5月に大阪で上演した。

 もともとこの作品に「資本主義社会の支配/被支配体系をユニークに表現した作品」という印象を持っていたタニノ。この3年間の大阪は橋下徹大阪市長が活躍するなど激動の時期。そんな世相が作品にどのような影響を与えたのかといった点も注目して見てみたい作品。

2020年を控えた今の東京に微妙にシンクロ シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017『陥没』

2017.01.22 Vol.683

 Bunkamuraシアターコクーンで2009年に『東京月光魔曲』、2010年に『黴菌』と昭和の東京をモチーフとした作品を発表し、「昭和三部作」を目指したケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。なにしろ多忙の身とあって7年の月日が経ってしまったが、このたび待望の完結編となる3作目が上演されることとなった。

 第一弾では昭和初期、第二弾は昭和中期ときて、今回は昭和の東京オリンピックを目前に控えた時代が舞台。

 敗戦からわずかな年月で復活を遂げた日本にとって、東京オリンピックはその輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台だった。スポーツ競技とは別のところで道路、さまざまな施設やビルの建設、新幹線など発展していく街の様子を誇らしく眺め、これを機に一攫千金をもくろみ、成功した者もいた。しかしその一方で、その時代、その場所に居合わせながら時流に乗り遅れた者たちもいた。この作品はそんなオリンピックとの因縁に翻弄される人々を描いた群像劇。

 2020年のオリンピックまであと3年となり、何かと騒がしい現在の東京。物語と現在が微妙にシンクロしなにやら妙な気分になりそう。

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