映画を始めとする創作物は、一度しか人生を歩めない人類が“誰かの人生を疑似体験しようとする悪あがき”の様なものだと思っているのですが、今回鑑賞した映画「The Son 息子」は、その純度がとてつもなく高かったです。
ヒュー・ジャックマンが、再婚して赤ん坊のいる家庭を持つ仕事盛りの弁護士を演じるのですが、そこへ前妻との間に生まれた、心の問題を抱える17歳の息子が訪れることから始まるストーリー。
メインのキャラクターは父と息子、前妻、今の妻の4人で描かれるのですが、それぞれの「関係の矢印」が、凄い。
1例をあげるとすれば、前妻の息子を受け入れようとする奥さんと、それに喜ぶ息子の中に「赤ん坊に何かされないだろうか」という不信感や「妻のいる男を寝とった女」という目線が混在している。
登場する全ての相関図に、こういった複雑な矢印が存在していて、更に“明確には”語られない。
どちらかというと、議論する場面が多いので、台詞も鋭い言葉のやり取りが続くのですが、物語の本質は、その間の登場人物たちの表情によってだけ語られていくという印象。
離婚の理由とか、最近の流行りだと「酒!暴力!金銭感覚!セックス!」みたいに、言葉として提示しがちですが、そういうことは、一切しないで「この話をしているときの顔を見る限り、お互いになにかしらあったんだろうなぁ…」と、胸に刺さる。
この“表情たち”の中に、何を感じるかこそが観客の得るものであり、複雑な家庭環境の話ではあるものの、全ての人が自分を振り返ってしまう「鏡を見せ続けられているかのような映画」でした。
特に印象的だったのはヒュー・ジャックマンが自分の父親に会う場面、父を演じるのは名優アンソニー・ホプキンス。
「わーい!ウルヴァリンとレクター博士がしゃべってる!」なんて、思う暇は一切なく、途端にティーンエイジャーの様な表情を見せるヒューに、愛しさと切なさで、心臓をがんじがらめにされてしまいました。
重い内容の映画ではありますが、人生の悪あがきを体験したい方には、是非オススメの1作です。